言葉が、ない。
わたしは何もわかっていなかった。
こうの史代先生といえば「この世界の片隅で」が有名ですが、
今回は、夕凪の街の桜の国のひと口読書感想文です。

広島を舞台にしたお話です。
原爆投下から10年後の広島。
13歳で被爆した皆実ちゃん(23歳)は、原爆で家を失くした人達が集まる集落に母と2人で住んでいます。
恋に落ちて、被爆した自分が結婚してもいいのか、子供を産めるのか、産んでもいいのか・・・
原爆で父と姉と妹を亡くした壮絶な被爆体験がフラッシュバックしてしまう。
相手に自分の被爆体験を話そうとしたそのとき、急に体調を崩し、被爆の後遺症でそのまま亡くなってしまう。
生きながらえて10年後、10年後なのに。
そして第二部、原爆投下から50年後の東京。
疎開して無事だった皆実ちゃんの弟、旭さん家族のお話です。
50年経って、住んでいる場所も東京なのに、旭さん家族は被爆者・被爆2世として暮らしています。
わたしはアラフォーなので親の気持ちも子供の気持ちもわかる・・・
広島平和記念資料館には子供の頃と大人になってからの2回行きました。
説明も読んだし、丁寧に見てまわったつもりでした。
でも、この本を読んで、被爆した人の生活というもの、「被爆差別」というものがあったのだと知りました。
原爆のことを表面をなぞって知った気になっていた自分をぶん殴られた気分です。

これは問題作じゃない。
衝撃作です。
皆実、霞、翠、旭、フジミ、打越、京花、七波、凪生、東子
登場人物に思いを馳せると、しばらく涙がとまりませんでした。
こんなに心を揺さぶられる作品は久しぶりです。
2020年で1番考えさせられました。
切なく容赦なく現実を突きつけてくるのに、どこか心が温かくなる。
どんな環境でも希望を忘れない、人間というものの底力を感じます。
もうこんな言葉では到底伝えられないのです。
もっともっと感じることがあるのに、うまく言葉になりません。
広島平和記念資料館に置いてほしい本です。